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東京地方裁判所 平成3年(ワ)18467号 判決

原告

株式会社X1

右代表者代表取締役

原告

株式会社X2

右代表者代表取締役

X3

原告

X3

右三名訴訟代理人弁護士

畑山実

被告

株式会社Y1銀行

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

尾崎昭夫

額田洋一

川上泰三

新保義隆

被告

Y2株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

岡田宰

被告

Y3

主文

1. 被告Y3は原告株式会社X1に対し、金四五三万四九五〇円及びこれに対する平成三年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2. 原告株式会社X1のその余の請求をいずれも棄却する。

3. 原告株式会社X2及び原告X3の請求をいずれも棄却する。

4. 訴訟費用は、原告株式会社X1と被告Y3の間においては、これを二分し、その一を原告株式会社X1の、その余を被告Y3の負担とし、原告株式会社X2と被告らとの間においては原告株式会社X2の、原告X3と被告らとの間においては原告X3の負担とする。

5. この判決は、主文第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一、原告らの請求

1. 被告株式会社Y1銀行(被告銀行)は、原告株式会社X1(原告X1社)に対し金九〇〇万円、原告株式会社X2(原告X2社)に対し金五〇〇万円、原告X3に対し金一〇〇〇万円、及び右各金員に対する平成三年一二月二七日から右各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2. 被告Y2株式会社(被告Y2社)は、原告X1社に対し金九〇〇万円、原告X2社に対し金五〇〇万円、原告X3に対し金一〇〇〇万円、及び右各金員に対する平成三年一二月二八日から右各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3. 被告Y3は、原告X1社に対し金九〇〇万円、原告X2社に対し金五〇〇万円、原告X3に対し金一〇〇〇万円、及び右各金員に対する平成三年一二月三一日から右各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は被告らの負担とする。

5. 仮執行の宣言。

第二、事案の概要

一、原告らの請求の概要

1. 被告Y3に対する請求

(一)  原告X1社は、被告Y3がa社パソコン売買代金名下に合計金九〇〇万円を振込送金させたことが詐欺の不法行為に該当するとして、金九〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月三一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(二)  原告X2社は、被告Y3がa社パソコン売買代金名下に金五〇〇万円を振込送金させたことが詐欺の不法行為に該当するとして、金五〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月三一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(三)  原告X3は、被告Y3がa社パソコン売買代金名下に金一〇〇〇万円を振込送金させたことが詐欺の不法行為に該当するとして、金一〇〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月三一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

2. 被告Y2社に対する請求

(一)  原告X1社は、被告Y3の前記不法行為についての使用者責任として(主位的請求)ないし売買契約上の債務不履行責任として(予備的請求)、金九〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(二)  原告X2社は、被告Y3の前記不法行為についての使用者責任として(主位的請求)ないし売買契約上の債務不履行責任として(予備的請求)、金五〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(三)  原告X3は、被告Y3の前記不法行為についての使用者責任として(主位的請求)ないし売買契約上の債務不履行責任として(予備的請求)、金一〇〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

3. 被告銀行に対する請求

(一)  原告X1社は、被告銀行長野支店が被仕向銀行として、同原告から金五〇〇万円の振込依頼がされ、仕向銀行である朝日信用金庫本店から振込通知のあった分について「b社」名義の口座に入金処理したこと及び金四〇〇万円の振込依頼がされ、仕向銀行である三菱銀行東秋葉原支店から振込通知のあった分について、「c社」名義の口座に入金処理したことが債務不履行ないし不法行為に該当するとして、金九〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(二)  原告X2社は、被告銀行長野支店が被仕向銀行として、同原告から金五〇〇万円の振込依頼がされ、仕向銀行である東京相和銀行千駄ヶ谷支店から振込通知のあった分について、「b社」名義の口座に入金処理したことが債務不履行ないし不法行為に該当するとして、金五〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(三)  原告X3は、被告銀行長野支店が被仕向銀行として、同原告から金一〇〇〇万円の振込依頼がされ、仕向銀行である太陽神戸三井銀行代々木支店から振込通知のあった分について、「c社」名義の口座に入金処理したことが債務不履行ないし不法行為に該当するとして、金一〇〇〇万円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

二、前提となる事実関係

1. 被告Y3及び被告Y2社関係

(一)  原告X1社は、被告Y3の依頼及び指示に基づき、a社パソコン代金として、平成三年八月一日、金五〇〇万円を被告銀行長野支店の口座番号○○の普通預金口座に、同月八日、金四〇〇万円を被告銀行長野支店の口座番号△△の普通預金口座に、それぞれ振込送金した(甲一の1、2、一〇、弁論の全趣旨)。

(二)  原告X2社は、平成三年八月八日、a社パソコン代金として金五〇〇万円を被告銀行長野支店の口座番号○○の普通預金口座に振込送金した(甲二、一一、弁論の全趣旨)。

(三)  原告X3は、平成三年八月八日、a社パソコン代金として金一〇〇〇万円を被告銀行長野支店の口座番号△△の普通預金口座に振込送金した(甲三、一一、弁論の全趣旨)。

2. 被告銀行関係

(一)  原告X1社が平成三年八月一日に被告銀行長野支店の口座に金五〇〇万円を振込送金した経過は次のとおりである(甲一の1、弁論の全趣旨)。

(1) 原告X1社が振込依頼をした仕向銀行、朝日信用金庫本店

(2) 原告X1社が振込依頼において振込を指定した被告銀行長野支店の口座

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 株式会社b

〈3〉 口座番号 ○○

(3) 被告銀行長野支店が右仕向銀行からの振込通知に基づいて入金処理した口座

(本件Aの口座)

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 b社・D

〈3〉 口座番号 ○○

(二)  原告X1社が平成三年八月八日に被告銀行長野支店の口座に金四〇〇万円を振込送金した経過は次のとおりである(甲一の2、弁論の全趣旨)。

(1) 原告X1社が振込依頼をした仕向銀行三菱銀行東秋葉原支店

(2) 原告X1社が振込依頼において振込を指定した被告銀行長野支店の口座

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 株式会社c

〈3〉 口座番号 △△

(3) 被告銀行長野支店が右仕向銀行からの振込通知に基づいて入金処理した口座

(本件Bの口座)

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 c社・E

〈3〉 口座番号 △△

(三)  原告X2社が平成三年八月八日に被告銀行長野支店の口座に金五〇〇万円を振込送金した経過は次のとおりである(甲二、弁論の全趣旨)。

(1) 原告X2社が振込依頼をした仕向銀行 東京相和銀行千駄ヶ谷支店

(2) 原告X2社が振込依頼において振込を指定した被告銀行長野支店の口座

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 株式会社b

〈3〉 口座番号 ○○

(3) 被告銀行長野支店が右仕向銀行からの振込通知に基づいて入金処理した口座は、本件Aの口座である。

(四)  原告X3が平成三年八月八日に被告銀行長野支店の口座に金一〇〇〇万円を振込送金した経過は次のとおりである(甲三、弁論の全趣旨)。

(1) 原告X3が振込依頼をした仕向銀行太陽神戸三井銀行代々木支店

(2) 原告X3が振込依頼において振込を指定した被告銀行長野支店の口座

〈1〉 預金の種類 普通預金

〈2〉 名義人 株式会社c

〈3〉 口座番号 △△

(3) 被告銀行長野支店が右仕向銀行からの振込通知に基づいて入金処理した口座は、本件Bの口座である。

三、争点

1. 被告Y3関係

(一)  原告X1社に対する詐欺の成否

被告Y3が原告X1社に対し、商品代金として、合計金九〇〇万円を振込送金させたことが、詐欺の不法行為に該当するか。

(二)  原告X2社に対する詐欺の成否

原告X2社が金五〇〇万円を振込送金した事実について、被告Y3の原告X2社に対する詐欺の不法行為が成否するか。

(三)  原告X3に対する詐欺の成否

原告X3が金一〇〇〇万円を振込送金した事実について、被告Y3の原告X3に対する詐欺の不法行為が成立するか。

2. 被告Y2社関係

(一)  被告Y3の本件行為が原告らに対する詐欺の不法行為を構成するか。

(二)  被告Y3の不法行為について、被告Y2社が使用者責任を負担するか。

(1) 被告Y3の本件行為が、民法七一五条一項所定の使用者の「事業ノ執行ニ付キ」された行為に該当するか。

(2) 原告らが被告Y3の本件行為が被告Y2社内の職務権限外の行為であることにつき悪意ないし知らないことについて重大な過失があったという理由で、被告Y2社の使用者責任が否定されるか。

(三)  被告Y2社は、被告Y3の原告らに対する本件行為について、売買契約上の債務不履行責任を負担するか。

(1) 被告Y3の原告らに対する本件行為について、被告Y2社と原告らとの間に売買契約が成立したか。

(2) 被告Y3の本件行為について、民法一〇九条ないし同法一一〇条の表見代理が成立するか。

(3) 被告Y2社は、被告Y3の本件行為を承認ないし追認していたか。

3. 被告銀行関係

(一)  被告銀行は原告らに対し、債務不履行責任があるか。

(1) 振込取引における依頼人と被仕向銀行との関係は復委任の関係にあるか。

(2) 被告銀行長野支店が被仕向銀行として、原告らからの本件各振込依頼に基づき各仕向銀行から振込通知のあった分について、各仕向銀行に対して振込入金先の口座に関する照会手続をすることなしに、本件A・Bの各口座に入金処理したことが、振込取引の依頼人である原告らに対する復委任契約上の義務違反となるか。

(二)  被告銀行は原告らに対し、不法行為責任があるか。

被告銀行長野支店が被仕向銀行として、原告らからの本件各振込依頼に基づき各仕向銀行から振込通知のあった分について、各仕向銀行に対して振込入金先の口座に関する照会手続をすることなしに、本件A・Bの各口座に入金処理したことが、原告らに対する不法行為を構成するか。

(三)  被告銀行長野支店が各仕向銀行に対して振込入金先の口座に関する照会手続をしなかったことと原告らの主張している損害との間に相当因果関係が存在するか。

第三、争点に対する判断

一、被告Y3関係

1. 原告X1社の請求

(一)  被告Y3は、平成三年八月当時、被告Y2社の合併及び商号変更前のd株式会社(d社)長野営業所の主任の地位にあり、a株式会社製の電気・電子機器及び部品等の販売の営業部門を担当していたことは当事者間に争いがない。

(二)  原告X1社は、被告Y3は原告X1社の代表取締役であるAに対し、平成三年八月はじめに、代金を受領しても、a社パソコンを送付するあても意思もなかったのに、「a社パソコンを送付するから、代金二〇〇〇万円を前払いで送金してもらいたい。」旨申し向け、更に、同月八日には、「商品は後で送るから、追加として金四〇〇万円を前払いで送金してもらいたい。」旨申し向けて、原告X1社に結果として、合計金九〇〇万円を振込送金させて、右金員を騙取した旨主張している。これに対して、被告Y3は、当時、原告X1社にa社パソコンを送付する意思もあったし、また、送付することは可能であった旨主張している。

(三)  ところで、本件証拠(甲一〇、原告X1社代表者本人、被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、被告Y3は原告X1社代表取締役のAに対し、平成三年八月はじめに、a社パソコンの代金の前払いとして金二〇〇〇万円を送金してもらいたい旨申し向けたこと、更に、同月八日に、追加分の代金として金四〇〇万円を送金してもらいたい旨を申し向けたこと、そして、Aは、被告Y3からの右の要請に応じて、右合計金二四〇〇万円のa社パソコンの代金のうち、金九〇〇万円を、前記のとおり、本件A・Bの各口座に振込送金したこと、被告Y3は、右金員を引出して受領した事実を認めることができる。

被告Y3は、原告X1社の主張している追加分の金四〇〇万円について、原告X1社との間の別の機会における取引で既に送付した商品の代金を請求したものであるかのような供述をしているが、右供述を裏付けるに足りる証拠はない。

(四)  被告Y3は、a社パソコンを原告X1社に送付する意思があったことの証拠であるとして、平成三年八月八日から同年九月三日までの間に、四八台合計金一一八三万四七〇〇円相当のa社パソコンを原告X1社に送付した事実がある旨主張しているところ、本件証拠(弁論の全趣旨)によれば、被告Y3は原告X1社に対し、平成三年八月八日に七台(金一八三万八五五〇円相当)、同月一九日に六台(金一五七万五九〇〇円相当)、同月二三日に四台(金一〇五万〇六〇〇円相当)のa社パソコンを送付した事実は認められるが、同年九月三日三一台(金七三六万九六五〇円相当)を送付したとの被告Y3の主張及び供述を裏付けるに足りる書証等の証拠は同被告から提出されていない。

したがって、本件においては、結果として、被告Y3は原告X1社に対し、一七台(合計金四四六万五〇五〇円相当)のa社パソコンしか送付していないというべきこととなる。

(五)  すなわち、被告Y3は、前記のとおり、原告X1社に対し、a社パソコンの代金として、合計金二四〇〇万円の前払いを依頼し、これに対して、原告X1社は、資金準備の関係から、自己において合計金九〇〇万円を振込送金し、その余は、原告X2社において金五〇〇万円、原告X3において金一〇〇〇万円の振込送金をしており、結局被告Y3は、原告らに依頼通りに、合計金二四〇〇万円の振込送金をさせておきながら、現実に送付したa社パソコンは前記のとおり、わずかに一七台(合計金四四六万五〇五〇円相当)のみであったことが認められるのである。

(六)  また、本件証拠(甲八の1、2、被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、被告Y3は、当時、a社パソコンをd社の正規の仕入価格以下の価額で顧客に販売を続けていた結果、仕入価格と販売価額との差額による赤字が大幅に累積していることが発覚したために、d社の長野営業所においては、a社パソコンの販売営業活動が禁止されていたこと、また、被告Y3が従前からa社パソコン商品をd社の正規の仕入れルートとは別途に、独自に仕入れていた株式会社bからも、未払代金が多額となったために、a社パソコンを仕入れることが不可能な状態にあった事実を認めることができる。

(七)  以上の認定事実に照らすと、被告Y3は、当時、合計金二四〇〇万円分に相当するa社パソコンを仕入れてこれを買主に送付することが不可能な状況にあったものというべきであり、このような事情があるにもかかわらず、原告X1社の代表取締役Aに対し、合計金二四〇〇万円に相当するa社パソコンを送付する旨申し向けて、その旨誤信させて、原告らに合計金二四〇〇万円を振込送金させたものというべきである。

(八)  したがって、被告Y3は、原告X1社に対し、a社パソコンを送付するあても意思もないのに、代金の前払いがされれば、商品を送付する旨申し向けてその旨誤信させて合計金九〇〇万円を振込送金させたものというべきところ、原告X1社は被告Y3から一七台(合計金四四六万五〇五〇円相当)のa社パソコンの送付を受けていることは前記のとおりであるから、原告X1社の損害額は、金九〇〇万円から金四四六万五〇五〇円を差し引いた金四五三万四九五〇円となるものというべきである。

2. 原告X2社及び原告X3の請求

(一)  原告X3は、原告X2社の代表取締役であるところ、原告X2社及び原告X3は、被告Y3が、原告X1社の代表取締役Aに対し、前記のとおりのことを申し向けて、原告らにおいて合計金二四〇〇万円を振込送金すれば、金額に相当する台数のa社パソコンを被告Y3から送付される旨誤信させ、更に、資金が不足しているため、原告X2社及び原告X3に合計金一五〇〇万円を振込送金させてもよいかとの右Aの質問に対し、これを了承し、以上のことを右Aを介して聞いた原告X2社の代表取締役である原告X3をして、代金一五〇〇万円を前払いで振込送金すれば、金額に相当する台数のa社パソコンが購入できる旨誤信させた上、原告X2社から金五〇〇万円、原告X3から金一〇〇〇万円を各振込送金させたことが詐欺の不法行為に該当する旨主張している。

(二)  なるほど、被告Y3は、原告X1社の代表取締役であるAに対し、a社パソコンの代金が前払いされても、商品を送付できるあても意思もないのに、これがあるように誤信させて、原告X1社として合計金九〇〇万円の振込送金をさせたことは前記のとおりであり、また、右Aが資金不足のために、金二四〇〇万円のうち、金一五〇〇万円を原告X2社ないし原告X3から振込送金してもらうこととし、右の金額に見合う商品を原告X2社に回したい旨の要請を受けた被告Y3は、これを了解して、結果として、原告X2社に金五〇〇万円、原告X3に金一〇〇〇万円を振込送金させたことは当事者間に争いがない。

(三)  しかしながら、被告Y3は、原告X2社の代表取締役である原告X3に対し、直接虚偽の事実を申し向けて誤信させたという事実はなく、原告X3が、以上に記載した事実経過に基づいて、原告X1社の代表取締役のAの言葉を信用して、金一五〇〇万円を送金すれば、金額に見合う商品が原告X1社から回してもらえるものと考え、原告X2社として金五〇〇万円、原告X3個人として金一〇〇〇万円を振込送金したとしても、これが、被告Y3の原告X2社ないし原告X3に対する欺罔行為に基づくものということはできないというべきであり、したがって、本件においては、被告Y3の原告X2社及び原告X3に対する欺罔行為の存在を肯定できないから、被告Y3の原告X2社及び原告X3に対する各詐欺の不法行為の成立を認めることはできない。

(四)  したがって、原告X2社及び原告X3の被告Y3に対する各請求は理由がない。

二、被告Y2社関係

1. 本件において、被告Y3の原告X2社及び原告X3に対する各不法行為が成立しないことは前記のとおりであるから、右各不法行為が成立することを前提として、被告Y2社に各使用者責任を求める原告X2社及び原告X3の請求は理由がない。

2. 被告Y3には、原告X1社に対し、詐欺の不法行為に基づき、金四五三万四九五〇円の損害賠償責任があることは前記のとおりである。

3. ところで、被告Y3は本件当時、被告Y2社の前身であるd社長野営業所主任の立場にあったことは当事者間に争いがなく、また、本件証拠(甲五、被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、被告Y3は、従前からd社長野営業所において、a社パソコンの販売活動をしてきており、当時長野営業所チームリーダー主任の肩書のある名刺を使用し、従前から原告X1社に対し、a社パソコンを販売していた事実を認めることができる。そして、原告X1社は、右の事実に基づき、被告Y3の原告X1社に対する前記の詐欺の不法行為は、民法七一五条一項所定の使用者の「事業ノ執行ニ付キ」された行為に該当する旨主張している。

4. しかしながら、本件証拠(被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、被告Y3は原告X1社の代表取締役Aに対し、a社パソコンの販売代金の振込送金先として、d社長野営業所の口座を指定せずに、株式会社bないし株式会社cの口座を振込送金先として指定したこと、原告X1社が振込送金したa社パソコンの代金は、被告銀行の本件A及びBの各口座に入金された後に、被告Y3においてこれを引出しており、d社には入金した形跡がないこと、被告Y3は当時、前記のとおり、d社長野営業所においては、a社パソコンの販売活動を禁止されていたものであり、現実に原告X1社に送付されたa社パソコンも、株式会社bから仕入れた商品であり、d社の商品ではないこと、原告X1社は、従前から、被告Y3を介してa社パソコンを購入していたが、これらの商品の多くが株式会社b名義で送付されていたこと等の事実を認めることができる。右の認定事実に照らすと、被告Y3の原告X1社に対する前記の不法行為は、外形においても、d社と原告X1社との間の取引において成立したものとは認め難い。

原告X1社は、被告Y3は、a社パソコンの仕入ルートである株式会社bについて、d社の子会社である旨申し向けていたのであり、原告X1社は被告Y3の右の言葉を信用していたため、本件a社パソコンの取引の相手方もd社と認識していた旨主張しているところ、本件証拠(被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、株式会社bがd社の子会社ではないことが認められ、また、被告Y3は株式会社bがd社の子会社である旨を原告X1社の代表取締役であるAに申し向けたことを否定する供述をしており、他に被告Y3がAに株式会社bがd社の子会社である旨を申し向けた事実を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、被告Y3の原告X1社に対する前記不法行為は、民法七一五条一項所定のd社の「事業ノ執行ニ付キ」された行為に該当することを肯定することはできない。

5. なお、原告らは、予備的に、被告Y3の本件行為により、被告Y2社の前身であるd社と原告らとの間に、a社パソコンの売買契約が締結された旨主張している。

しかしながら、被告Y3の原告X1社に対する詐欺の不法行為が認められ、かつ、前記4記載の事実が認められる本件においては、原告X1社とd社との間に、金九〇〇万円相当のa社パソコンの売買契約が締結されたことを認めることはできない。また、本件証拠(被告Y3本人、弁論の全趣旨)によれば、原告X2社において振込送金した金五〇〇万円、原告X3において振込送金した金一〇〇〇万円についての取引も、原告X1社の場合と同様に、被告Y3がd社の営業活動とは別個独立に、独自のa社パソコンの仕入ルートである株式会社bを利用して行ったものというべきであり、d社と原告X2社ないし原告X3との間に、a社パソコンの売買契約が締結されたものと認めることはできない。

6. 原告らは、民法一〇九条ないし同法一一〇条の表見代理に基づき、原告らとd社との間に、a社パソコンの売買契約が成立する旨主張しているが、前記4の事実関係が認められる本件においては、右の主張を肯定することはできない。

7. 原告らは、d社は、被告Y3の原告らに対する取引を承認ないし追認した旨主張するが、右の主張を認めるに足りる証拠はない。

三、被告銀行関係

1. 原告らは、原告らが、被告Y3の依頼ないし指示に基づき、a社パソコンの代金を振込送金した際の振込依頼において振込を指定した被告銀行長野支店の口座は、

(指定(一)の口座)

預金の種類 普通預金

名義人 株式会社b

口座番号 ○○

(指定(二)の口座)

預金の種類 普通預金

名義人 株式会社c

口座番号 △△

であるところ、被告銀行長野支店が本件各仕向銀行からの振込通知に基づいて入金処理した口座は、

(本件Aの口座)

預金の種類 普通預金

名義人 b社・D

口座番号 ○○

(本件Bの口座)

預金の種類 普通預金

名義人 c社・E

口座番号 △△

であることは前記のとおりである。

2. 原告らは、前記指定(一)・(二)の各口座は現実に被告銀行長野支店において開設されておらず、現実に開設されている本件A・Bの各口座と対比すると、各名義人が異なっており、したがって、各仕向銀行から振込送金先として架空の前記指定(一)ないし(二)の口座を指定する振込通知があったというべきであるから、被告銀行長野支店としては、これを直ちに本件AないしBの口座に入金することは許されず、各仕向銀行に先ず照会手続を講ずるべきであったのに、これをしないで、直ちに入金した被告銀行長野支店には、債務不履行ないし不法行為の責任がある旨主張する。

3. しかしながら、前記指定(一)の口座と本件Aの口座、前記指定(二)の口座と本件Bの口座をそれぞれ対比検討すると、いずれも、預金種目・口座番号が同一であり、しかも名義人も、前記指定(一)の口座と本件Aの口座とでは、「b社」の記載が共通し、前記指定(二)の口座と本件Bの口座とでは、「c社」の記載が共通していることが認められ、かつ、被告銀行長野支店においては、当時、前記以外に、「b社」ないし「c社」の記載を含む名義人の普通預金口座が存在していたことを認めるに足りる証拠がない本件においては、その余の点について判断するまでもなく、原告らからの振込送金分について、各仕向銀行に対する照会手続をすることなく、本件AないしB口座に入金処理したことについて、被告銀行に債務不履行責任ないし不法行為責任を負担させる理由はないというべきである。

四、以上によれば、原告X1社の被告Y3に対する本訴請求は、金四五三万四九五〇円の損害の賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月三一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求をいずれも棄却し、原告X2社及び原告X3の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 濵野惺)

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